『タイガーマスク』の物語

ども。ミロです。

いま何かと話題の『タイガーマスク』ですが、
オリジナルの『タイガーマスク』の物語を知らない世代もいるとおもうので、
簡単に振り返ってみたいと思います。

まずはアニメの主題歌からどうぞ!
これが流れないと『タイガーマスク』は始まりません。

『タイガーマスク』オープニング

伊達直人が孤児だったことはよく知られているようですが、
どうして孤児になったのか、孤児院「ちびっこハウス」に来たいきさつとかは、
原作でも語られていないのでわかりません。

ただ時代的に戦災孤児だったと思われます。
『記念樹』なんてドラマもあったりして、
けっこう当時は孤児院はよくドラマや少女マンガの題材にされていました。

孤児の家「ちびっこハウス」は、孤児たちを救う仕事が世間から理解されず、
借金の山をかかえて解散しなければならなくなります。

あすはみんなよその孤児院に引き取られていくという最後の日、
子供たちはみんなで上野動物園へでかけます。

こどもだった伊達直人は、虎の檻の前で、
この虎のように強くなりたい、そしてホームをとりあげるやつらをやっつけてやりたい!と叫びます。

それを聞いていた3人組の学生が嘲笑ったために、
直人と乱闘になり、3人は叩きのめされます。

それをとめるまだ学生だった若月先生は、
学校を出たら父を助けて一日でも早くみんなで暮らせるようにするからと直人をなだめます。

おれもやるんだ、とらのようにつよくなって自分のちからでやるんだ!
と言い残して、雑踏の中へ消えたきり、直人は行方不明になってしまいます。

じつはこの直後、直人が喧嘩するところを見ていた「とらの穴」のスカウトにさらわれてしまったのです。

これが『タイガーマスク』の長い物語の発端です。

「とらの穴」というのは、
世界中から身寄りが無く腕っ節の強い少年たちだけをさらって来て、
無敵の悪役プロレスラーに仕立てあげて金儲けをしている悪の地下組織です。

ドイツのヨーロッパ・アルプスに秘密のジムがあり、
そこには翼の生えた虎の巨大なシンボル「魔神像」がそびえ立っています。

10年間にわたる過酷な訓練のため、5年半がすぎた頃には3分の2の少年たちが死に、
残りの半分が再起不能になるという地獄のトレーニングに、
伊達直人は金を稼いで孤児たちにつくしたいという思いだけで耐え抜きます。

…「ちびっこハウス」の若月ルリ子の面影も胸に抱き続けたに違いありません。

アメリカで「黄色い悪魔」と異名をとるようになったタイガーマスクは、
故国・日本へと向かいます。

「とらの穴」仕込みのあまりに凄まじい反則技の数々に、
ジャイアント馬場率いる日本プロレス協会を敵に回すだけでなく、
タイガーマスクは日本の観客すべてを敵にまわしてしまいます。

伊達直人にもどった彼は、昔飛び出したなつかしい「ちびっこハウス」をたずねます。

「ちびっこハウス」は若月先生兄妹によって再建されていました。

再建したとはいえ、いまだに借金に追われ、
今また「ちびっこハウス」が潰れかかっていることを知り、
伊達直人は苦悩の末、その借金を立て替えてしまいます。

「とらの穴」には必ず守らなければならない「鉄の掟」が3つあります。
1.覆面を付けること。
2.反則技を使うこと。
3.ファイト・マネーの半額を、上納金として「とらの穴」に収めること。

伊達直人は「とらの穴」への上納金を支払うことが出来ずに、
それ以降「とらの穴」の裏切り者として、
世界中の「とらの穴」出身の悪役レスラーから、命を付け狙われることになるのです。

「とらの穴」がつぎつぎに差し向ける、怪物的な悪役レスラーとの戦いが、
『タイガーマスク』の表向きのメイン・モチーフとなります。

が、しかし『タイガーマスク』の真実のテーマは、
伊達直人の孤児だった自己のトラウマとの戦いだったのではないでしょうか?

伊達直人は、「とらの穴」が「タイガー」を名乗らせるほどの「とらの穴」の優等生でしたが、
悪役を演じながらもすこしずつプロレスの素晴らしさに目覚め、
技と技で戦う正統派のプロレスラーになりたい気持ちを抑えていました。

ただみなし児たちを救うことができるのは、
孤児であることの辛さを知っている自分しかいないと思い込んでいたように思われます。

「ちびっこハウス」では、直人はタイガーマスクであることを隠して、
亡くなったハワイの親せきから巨大な遺産を受け継いだおっちょこちょいの青年を演じているので、
こどもたちは「キザにいちゃん」と呼んでいます。

ただルリ子だけは、タイガーマスクが日本に現れると同時に帰って来た直人が、
本当はタイガーマスクではないかと疑い続けます。

うーん、女の勘ってやつはあなどれません!

「ちびっこハウス」の健太という少年が、タイガーマスクにいれあげるあまりに、
自分もタイガーマスクみたいに強くずうずうしく悪役で人生をわたってやると言い出します。

ルリ子はタイガーマスクにリングサイドから頼みごとをします。
間違った道を歩もうとしている健太のために、
健太があこがれているあなたから、
正しい道を歩むように教えてください、と。

そのときからタイガーマスクは、みずから反則技を封じ、
フェアプレイのプロレスをやる決意を固めます。
たとえ自分が死んでも、健太には自分のような暗い道を歩ませてはならない、と。

しかし、「とらの穴」が差し向ける悪役レスラーの反則技は凄まじく、
とても正攻法で戦えるレベルのものではありません。

タイガーは、反則なしで戦うには、
じぶんには決定的にテクニックが不足していることに気付かされます。

そして猛特訓のすえ、ウルトラ・タイガー・ドロップ、フジヤマ・タイガー・ブリーカー、タイガーVなどの、
独自の必殺技を編み出します。

「とらの穴」への反発から、
あまりにフェアプレイにこだわりつづけるタイガーマスクに転機が訪れます。

ルールが認めるカウント・ファイブまでは反則もテクニックのうち、
技には技で、反則には反則で勝ってこそ、
プロレスのオールラウンド・プレーヤーだと、
ミル・マスカラスの弟から気付かされます。

「悪役ワールドリーグ戦」に勝ち抜いたタイガーマスクは、
三億円の優勝賞金をルリ子に渡し、
いちどはルリ子やこどもたちにじぶんがタイガーマスクであることを告白しようとして思いとどまります。

世界チャンピオン、ドリー・ファンク・ジュニアとのタイトルマッチに挑戦し、
いよいよ正統派プロレスの頂点に上り詰めようとしている時、
タイガーに予期せぬ不運がおそいかかります。

試合会場へ混雑を避けて裏道を急いでいる時、
自転車の少年が車にひかれそうになるのを見て、
おもわず直人は少年を助けようと車の前に飛び出します。

伊達直人はタイガーマスクであることをかくしたまま不慮の交通事故で死亡し、 タイガーマスクは遂に試合場に現れず、謎の失踪をしたことになって終わります。

ただルリ子だけは、報われぬ愛に生きた直人がタイガーマスクだったことを確信していました。

ルリ子はいつか直人と結ばれて、 ともにハウスを経営していくことを夢見ていたのでした。

そしてルリ子は誓います。 タイガーマスク伊達直人が命をかけて血みどろになって戦ったように、 じぶんもまたこどもたちのためにさびしくても苦しくても戦いつづけることを。

(講談社©梶原一騎・辻なおき)