『ウルトラセブン』第12話 欠番問題──原爆と、宇宙人と、怪獣と

『ウルトラセブン』第12話 欠番問題というのは、円谷特撮ファンならだれもが知っている、痛恨の事件です。
それが、とんでもない形で「原爆」にかかわりがあるのです。

私は第12話の本放送も再放送も見ることができた世代で、
『ウルトラセブン』は大好きでよく見ていたのですが、
なぜかこの「第12話」を見た記憶はありません。

市民団体から抗議があったということを知ったのは、
もう大人になってからのことです。

なぜ記憶がないのか考えてみたのですが、たぶん、それはこういうことだと思うのです。

当時のたいていの家庭には、一家に1台しかテレビがありませんでした。
そのため、同時間帯に見たい番組が重なると、
家族の間で熾烈しれつな「チャンネル争奪闘争」が繰り広げられました。
それは我が家でも同様でした。

たいていは親父が見たい番組が優先されて、巨人戦のナイター中継に、
『ウルトラセブン』は敗れつづけていました。
野球中継以外の番組だった可能性もありますが。

その見ることが出来なかった時に、
「第12話」は放送されたのではないか? と考えられます。

それでも再放送も含めると、
『ウルトラマン』にせよ『ウルトラセブン』にせよ、全話を見たと思い込んでいました。
私が見た再放送では、すでに「第12話」は封印されてしまっていたのかもしれません。

『ウルトラセブン』第12話 欠番問題の顛末

例えばいま『ウルトラセブン』のブルーレイやDVD全集を購入したとしても、第12話だけはしれっと収録されていません。私が三十年ほど前に購入したレーザーディスク版全集にも、第12話だけは収録されていませんでした。

なぜそんなことになったのか?

事件の顛末を詳しく見ていきましょう。

『ウルトラセブン』第12話「遊星より愛をこめて」は、1967年12月17日にTBS系で放送されました。

監督:実相寺昭雄
脚本:佐々木 守
登場宇宙人:スペル星人
デザイン:成田 亨
造型:高山良策

その後、再放送もされています。タイアップのおもちゃや、本なども発売されているし、各種イベントで着ぐるみも登場していました。
それまでは、なんの問題も起きてはいませんでした。

ところが3年後の1970年10月、
小学館の学習雑誌『小学二年生』1970年11月号が、付録に「かいじゅうけっせんカード」というのを付け、それにはスペル星人も入っていました。

(表面)                (裏面)

かいじゅうけっせんカード

当時中学一年の中島ゆかりさんは、弟が読んでいる『小学二年生』を開いてみると、
上のような「かいじゅうけっせんカード」が折り込まれており、
「ひばくせい人」のカードを見て疑問を持ったのだそうです。

ゆかりさん、私と同い年のひとや!

「朝日新聞」1970年10月10日

新聞記事の写真だけでは、何が書かれているのか解りにくいですね。
可能な限り、書き起こしてみます。
文字がかすれていて読みにくいので、間違えているところもあるかも知れません。気付いた人がいたら、コメントからでも教えていただけると嬉しいです。


被爆者の怪獣マンガ
  
小学館の『小学二年生』に掲載
   
 「残酷」と中学生が指摘

「原爆の被爆者を怪獣にみたてるなんて、被爆者がかわいそう」──小学館《東京・千代田区一ツ橋、相賀徹夫社長》発行の『小学二年生』十一月号に掲載された一枚の怪獣漫画が、一女子中学生の指摘から、問題になっている。
 問題の漫画は、怪獣特集として折込みになっている『かいじゅう けっせんカード』のうちの一枚。切取って勝ち負けのカード遊びができるようにつくられている。四十五の怪獣が並んでいる中で、人間の格好をした「スペル星人」は、「ひばくせい人」との説明書きがあり、全身にケロイド状の模様が描かれている。
 この怪獣をみて最初に疑問を感じたのは、東京都世田谷区上野毛四丁目、中島竜美さん(四二)の長女、ゆかりさん(一三)=同区立玉川中一年=。弟が毎月買って読む「小学二年生」をめくっているうち、「ひばくせい人」の「ひばく」ということばが気になった。中島さん一家は原爆の被害者ではないが、中島さんが東京都原爆被害者団体協議会の専門委員をしている関係から、日ごろ家庭内で原爆問題を話合うことが多かった。ゆかりさんは「実際に被爆した人たちがからだにケロイドを持っているからといって、怪獣扱いされたのではたまらない」と思った。
 その晩、父親の中島さんにその漫画をみせ、疑問を話した。中島さんはその場で「小学二年生」の編集長にあてて手紙を書いた。「現実に生存している被爆者をどう考えているのか。子供たちの疑問にどう答えるのか」と。
 同社からの返事はまだない。このため都原爆被害者団体協議会、原爆文献を読む会などは同社に対し、正式に抗議文を手渡すことを近く検討する。
 「小学二年生」編集部の説明だと、この怪獣漫画は、映画の特殊撮影で知られる世田谷区砧七丁目、円谷プロダクションで製作した、という。円谷プロの話では、「ひばくせい人」は架空の宇宙人として設定したといい、四十二年十一月十七日にTBSテレビで一日だけ放送したが、別に問題にならなかったという。しかし「格好も人間そっくり、そのうえケロイドまで描いた点はたしかにまずかった。視聴者の方たちに不快な気持を抱かせたことは反省する」と、末安博同プロ営業課長はいっている。
 田口稔『小学二年生』副編集長の話 私はどんな怪獣が掲載されているかもよく解らないのだが、至急調べてみる。調べてからでないとなんともいえない。うちでつくった怪獣ではないので──。」

絶対に許せない
「原爆文献を読む会の会員 長岡弘芳さんの話 一部マスコミにはこれまでも被爆者の神経を逆なでするような例がいくつかあった。しかし悪意のない不用意なものがほとんどだったので、とくに問題にしなかったが、怪獣漫画は許せない。」(「朝日新聞」1970年10月10日)

一読してわかるのは、まず、
「被爆者の怪獣マンガ」という朝日新聞の記事タイトルは、ウソだということです。

記事を読むと、円谷プロに取材して「架空の宇宙人」だということが分かっているにもかかわらず、
あえて虚偽のタイトルを載せたのには、どんな意図があったのでしょうか?

朝日新聞が、どんな問題記事を載せる会社かは、我々はすでに十分承知しています。
「暁に祈る」事件と「朝日新聞」

ここでも朝日新聞は、
中島さん親子の抗議を、炎上商法の絶好のネタを発見したとばかりに、
あたかも円谷プロや小学館に「悪意」があったかのように、誘導しようという意図が見えます。

また、ゆかりさんの父、中島竜美さんは、
「東京都原爆被害者団体協議会の専門委員をしている関係から、日ごろ家庭内で原爆問題を話合うことが多かった。」とあります。
つまり、ゆかりさんが怪獣カードを見て、すぐに被爆者を連想したのには、
そういう背景があったというわけです。
普通の人が見れば、”怪獣”で済んだ話だったはずなのですが。

朝日新聞が伝えたところによると、
「実際に被爆した人たちがからだにケロイドを持っているからといって、怪獣扱いされたのではたまらない」
と、ゆかりさんは思ったのだそうです。

このカードを見て、すぐに「ひばくせい人」=「広島・長崎の原爆被爆者」と思った人が、日本中でどれくらいいたでしょうか?
もちろん、ゆかりさんのその直感的な思い込み自体が誤解でした。

どうやら、ゆかりさんは、『ウルトラセブン』という番組を見たことがなかったようなのです。
子どものものの見方というのは、知らず知らずのうちに、親から影響を受けます。

私なんかは、原爆で被爆した人の写真なんて、かなりの年齢になるまで見たことがなかったので、
スペル星人を見て「あっ!原爆被害者だ!」などと思うはずがありません。

たいていの子どもは、そんなものだったろうと思います。

私はそのころ『ウルトラQ』から始まって、
『ウルトラマン』『ウルトラセブン』と円谷プロのウルトラ・シリーズに夢中でしたが、
興味のない子供や大人にとっては、
ウルトラ・シリーズなんて、見たことも聞いたこともない存在だったとしても不思議はありません。

なにしろ、現代では日本文化を代表する存在となったマンガアニメですら、
当時は子供に悪影響を与えるとして、PTAが目の敵にしていた時代でしたから。

彼らに、この作品の素晴らしさがわかるセンスを持つことを期待するなど、
期待する方が間違っているとも言えるでしょう。

とはいえ、新聞という社会的公器で批判するからには、
最低限、実際に第12話を見てから批判すべきだったのではないでしょうか?

そうしていたら、第12話を永久欠番に追い込むような黒歴史は起こらなかったかもしれないと思うと、
はらわたが煮えくり返ります!

批判する側の一方的な思い込みだけで、創作物の発表ができないように追い込むことは、
「表現の圧殺」「言論封殺」以外の何物でもないと思いますが、
言論機関たる朝日新聞の正義はどこにあるのでしょうか?

1970年10月21日、円谷プロの円谷一社長(当時)は、被爆者団体からの抗議に回答しました。

「出版物に於けるスペル星人の取り扱い方につきまして、弊社と致しましても、監修、管理の不行届きのありました点及び別名を被爆者星人と称した点、又形状の人間に近いプロポーションであった点等を十分反省し、今後一切、スペル星人に関する資料の提供を差し控える所存でおります。」

これ以降、スペル星人が登場する第12話が再放送されることはなくなり、雑誌や怪獣図鑑に登場することもなくなりました。事実上の「永久欠番」が決定されたのです。

ウルトラファンたちは、こんなつまらない誤解から、スタッフや出演者たちが精魂込めて作り上げた作品を、社会的に抹殺されてしまったことに、いまも大きな怒りを感じています。

小学館もただ謝罪するだけでなく、どうしてちゃんと元になったSF的設定を説明しなかったんだろう?と思っていましたが、
じつはちゃんと説明していたことを今回知りました。


被爆者怪獣扱いの出版物
   
新聞が問題大きく
       小学館、責任転嫁の社告を出す


 子供向けの出版物に、原爆被爆者とまぎらわしい図を”スペル星人”として掲載した問題は、十七日までに掲載した各社が「配慮を欠いた」ことを認めたが、問題の発端となった小学館だけが発売中の”小学二年生”に「新聞報道はあやまり」という社告を出し、問題が再びこじれてきた。
 ”スペル星人”(別の説明は”ひばくせい人”)の図は小学館発行の”小学二年生”十一月号のほか講談社、朝日ソノラマ、サン企画、エルム、秋田書店、黒崎出版の六社も「図鑑」「大事典」「怪獣ミニカード」などに掲載していた。「原爆文献を読む会」(東京世田谷区豪徳寺二丁目、世話人、長岡弘芳氏)は原作の円谷プロをはじめ全社に抗議文を送っていたが、小学館を除く各社はこれまでに「円谷プロのストーリーは原水爆の恐ろしさを知らせるもので、被爆者を怪獣扱いする意図はなかったが、結果的には配慮を欠いた」と事実上の謝罪文を寄せ「新刊、重版からは削除する」ことを約束した。また原作の円谷プロも「今後スペル星人の配給、資料提供はしない」という方針を明らかにした。
 小学館も「被爆者を怪獣扱いする意図はない。今後はこのような取り扱いはしない」という回答を出した点では同じだが、問題になったのは報道機関に対する批判。
 原田美房同社第一編集部長名の回答文には「新聞等があたかも私どもが被爆された方々を怪獣にみたてたりマンガにしたかのように報道しましたが、私どもにはそのような事実は全くなかった」としさらに「残念なことは、新聞等が”スペル星人”が昭和四十二年テレビに登場して以来、日本中のだれもが考えおよばなかった”被爆者を怪獣に……”という文字を、事実であるかのように広く流布したことであります。このことは、全国の被爆された方々に対し、とり返しのつかない誠に残念なこと」と書かれている。
 さらに十一月初旬に発売された「小学二年生十二月号」の中に「一部の新聞で被爆された方々をばかにしたものと報道されましたが、これは誤りです(後略)」という編集部名の社告を出した。
 この回答文に会のメンバーは憤慨し「ことのおこりは新聞でなく、中学生が抗議したことだ。小学館の態度は、自分の責任を新聞報道に転移しようとするもので、反省の態度ではない」と近く、小学館の責任者に直接話し合いを求めることになった。
 同会は二年前、原爆に関する資料集めをしていた著述業の長岡氏が発起人となって作られた小規模の勉強グループ。小学館では「話し合いを求められれば応ずる」という態度を明らかにしている。
(毎日新聞 1970年11月18日)


説明はしたものの、今度は「毎日新聞」が、「責任転嫁」だと。
新聞社は、正義の味方面してデタラメを書き散らしてもいいけど、
出版社がまともな反論をしたら、「責任転嫁」にされてしまうのか!

…この問題について考えるときには、当時の時代状況を考慮する必要があります。

第12話を監督した実相寺昭雄の自伝的作品『星の林に月の舟』を読み返してみましたが、
第12話のエピソードはまったく出てきませんでした。
円谷プロが永久欠番にしてしまった以上、そこに触れるのはタブーになっていたのでしょうね。

この本を読むと、「特撮」ドラマというものが、当時のテレビや映画関係者から、
いかに低く見られていたかがよくわかります。
その低い評価に挑戦して、金も時間もない中、
実相寺監督たちが奮闘していた青春時代のことが書かれています。

特撮ドラマの魅力にいち早く目覚め、作品として正当に評価していたのは、
私たち元祖テレビっ子世代だったということになりそうだな。

世の中は、まだ「SF」という概念さえ知らない人だらけでした。

そんな時代に、私なんかは、SF (Science Fiction=空想科学)に夢中で、
それから年齢を重ねるにしたがって、SF熱はさらに熱いものになっていきました。

そういう時代状況の中で起きた問題だったことを、
あらためて指摘しておく必要があると思います。

朝日新聞や被爆者支援団体の人たちも、
日本のブラウン管の中で『ウルトラセブン』というSF特撮ドラマの傑作がひそかに生まれていたことを知らず、
怪獣などという子供だましで商売している輩ぐらいの先入観で、抗議していたように思えます。

この私の推測は、『怪獣学・入門!』(JICC出版局、1992年)所収の「「幻の12話」を20年間追い続けた男」を読んだことで裏付けられました。

この本で紹介されている森直彦さんは、第12話欠番事件の正確な事実関係を知りたいと思い、
糾弾している側の人物との接触に成功して、
回答の代わりに『”ひばく怪獣”問題資料集』という小冊子を受け取りました。

この小冊子は、糾弾した側が、抗議書とその回答などをまとめたものでしたが、
そこに書かれた事件の経過を読んだ森さんは、怒りを覚えたそうです。

円谷プロ側が再三にわたり、作品そのものは核兵器の恐ろしさを訴えたものであると説明しているにもかかわらず、
糾弾側はついに一度も作品を見ることなく否定し去ったそうです。

森さんの次の言葉は、私の推測が正しかったことを裏付けてくれています。

糾弾側の背景にあるのは、”怪獣もの”に対する無知と偏見です。糾弾側の資料には何度も”たかが怪獣”という記述が見られます。それこそ差別ではないでしょうか?

「「幻の12話」を20年間追い続けた男」(『怪獣学・入門!』JICC出版局、1992年、所収)

『ウルトラセブン』第12話「遊星より愛をこめて」とは、どんな作品なのか?


『ウルトラセブン』は、『ウルトラマン』の後番組として始まった、
地球を侵略しようとする「宇宙人」が次々に登場する、本格的なSFドラマでした。

「怪獣」の次は「宇宙人」か! と、
予告を見た瞬間から、私のワクワクは始まりました。

7人の監督と12人の脚本家によって、全49話が作られました。

地球は狙われている

という共通のコンセプトが、49話の物語全体を貫いています。


宇宙からの侵略に対抗するため、人類は地球防衛軍を結成し、
世界各地に支部が置かれました。

日本にも、最高の軍事力を誇る極東基地が置かれ、
ウルトラ警備隊は、極東基地の精鋭たちによって作られた特別部隊でした。

ウルトラ警備隊の隊員の一人、モロボシ・ダンは、
M78星雲の宇宙人・ウルトラセブンが、地球人の姿を借りた秘密の存在でした。

『ウルトラセブン』第12話「遊星より愛をこめて」のストーリーを簡単に紹介しておきます。


宇宙で謎の爆発が起きます。

宇宙空間をパトロールしていたウルトラ警備隊のホーク2号のアマギ隊員は、
宇宙に異変はなく、平日より若干多量の放射能を検出しただけであると、本部に報告します。

その後、東京では、若い女性が突然倒れて意識不明になり死亡するという事件が続発します。

亡くなった女性たちは皆、同じ型の腕時計をしていて、
血液中の白血球がなくなるという謎の症状を呈していました。

腕時計は、分析の結果、地球上には存在しないスぺリウムという物質でできており、
内部には、白血球が結晶化した微粒子が残されていました。

ウルトラ警備隊のアンヌ隊員は、高校時代の友人・山辺早苗と会ったとき、
早苗も同じ時計を持っていたことから、それを与えた早苗の恋人・佐竹三郎を探り始めます。

佐竹は、丸い窓がたくさんある建物に入っていきましたが、そこはスペル星人のアジトでした。
腕時計は「血液結晶機」で、スペル星人たちは、地球人の血がかれらの生命維持に使えるかどうかの実験をしていたのでした。

実験は成功し、さらに子供の血の純度が高いことがわかり、
スペル星人は、地球の子どもの血を吸うために、仲間を地球に呼び寄せることを決めました。

スペル星人は、吸血宇宙人だったのです。

ウルトラ警備隊は、スペル星人の野望に気が付き、
吸血腕時計が子供たちに渡されるのを阻止するため、アジトに向かいますが、
轟音とともにアジトのビルは壊れ、中から巨大化したスペル星人が現れました。

スペル星は、スぺリウム爆弾の実験によって、放射能で血液が著しく侵されたため、
その血に代わるものを求めて、かれらは地球にやって来たのでした。

早苗の弟が佐竹に連れ去られ、早苗はアンヌとともに奥多摩の氷川貯水池に、ポインターで向かいます。

わが愛車・ポインター 模型だけど…


ソガ隊員が逃げる佐竹を銃で撃つと、佐竹は巨大化して、早苗の目の前でスペル星人の姿を現してしまいます。(この時、ソガ隊員が撃った銃は、「エレクトロ – H – ガン」だと思われる。)

ウルトラホーク1号と3号が出撃し、1号はスペル円盤と戦い、3号は地上にいるスペル星人と戦いました。
ダンが操縦する3号は、スペル星人が眼から発射した光線が当たり、撃墜されてしまいますが、
ダンはウルトラアイを装着し、ウルトラセブンに変身します。
突如あらわれたウルトラセブンによって、スペル円盤が張り巡らしていたバリアは排除され、その隙をついてホーク1号が撃墜します。
スペル星人は、セブンのアイスラッガー攻撃で、真っ二つにされて散っていきました。

   早苗、佐竹から贈られた腕時計を、貯水池に投げ捨てる。

アンヌ「夢だったのよ」

   アンヌが早苗をなぐさめると、

早苗「ううん、現実だったわ。あたし忘れない、けっして……。
  地球人も他の星の人もおんなじように信じ合える日が来るまで」

アンヌ「来るわ、きっと。いつかそんな日」

ダン「そうだ、そんな日はもう遠くない。
  だって、M78星雲の人間である僕が、
  こうして君たちと一緒に闘っているじゃないか」

   心の中で、ダンは呟いていた。


「遊星より愛をこめて」の「遊星」とは、スペル星ではなく、地球のことだったと思われます。


『ウルトラセブン』第12話「遊星より愛をこめて」

あれ!? アンヌ(菱見百合子)とフジ隊員(桜井浩子)が共演している!
これは見た覚えがあるぞ!

左・桜井浩子(早苗)と右・菱見百合子(アンヌ)


それから、スペル星人のアジトの、丸い窓がたくさんある建物も!
こんなのを一度見たら、忘れるわけがない。

第12話「遊星より愛をこめて」より
第12話「遊星より愛をこめて」より


この建築物は、通称「百窓」とか「百目」といって、
世田谷区に立っていた実在の個人宅で、建築デザイナーが名付けた正式名称は「起爆空間」とのこと。

当時、その変わったデザインがかなり評判だったようで、
『ウルトラセブン』以外にも、『チビラくん』とか『快獣ブースカ』とか九重祐美子の『コメットさん』にも映っていたという指摘もあります。

こういう近未来的なデザインの実在する建物が、さりげなく物語の中に登場してくるのも、
『ウルトラセブン』の世界を豊かにしていた要因のひとつでした。

だけど、このストーリーには覚えがないんだよね。
スペル星人にも……
次回予告で見たのかなあ。


動画を見ての正直な感想を言うと、
「欠番にならなかったら、これほど注目されなかっただろうな」というレベルの作品ですね。

それは『ウルトラセブン』の中で!ということであって、
凡百の特撮ドラマとくらべたら、圧倒的に素晴らしいです。

実相寺監督の「怪獣プロレスごっこ嫌い」が、遺憾なく発揮されている作品でもあります。

実相寺昭雄監督の作品では、ほかにもっと好きな作品があります!

特に第44話「円盤が来た!」は、当時、天文少年で、安物の天体望遠鏡を星空に向けていた私にとって、
明日にでも実際に起こりそうな感じのする、宇宙人との接近遭遇事件が描かれていて、秀逸でした。

いまでも、私の中では、『ウルトラセブン』中、No.1の作品となっています!

第44話『円盤が来た!』より


天体望遠鏡をのぞいていたら、突然、こんな無数の円盤が飛んでいるのが見えるんですからね!
俺にも見えないかなあ、とワクワクしたものです。

第44話『円盤が来た!』より


孤独な青年フクシン君に、星の世界に連れて行ってあげようと、誘惑してくるペロリンガ星人。
行っちゃえ! フクシン君! 退屈な地球なんておさらばだ!

引用した写真を見てもらえば、実相寺監督の特異なカメラアングルが分かってもらえると思います。
手前に人物や物を置き、それをナメるように向こう側を撮影する技法。
人物を下からあおって撮る技法。
それらが縦横に組み合わされて、画面に変化と異化効果を与えています。
ほとんど「ストーカー」の視線ですね。
光線の取り入れ方にも、1カット1カット工夫が凝らされています。

こんなところが実相寺作品の面白いところで、
特撮場面以外でも、彼の作品には映像的なポエジーやセンスオブワンダーが感じられました。

『ウルトラセブン』第12話、欠番騒動の問題点とは?

騒動の経過を、もう一度振り返っておきます。

1⃣『ウルトラセブン』第12話「遊星より愛をこめて」放送(1967年12月17日)
2⃣ 3年後、小学館『小学二年生』1970年11月号が、「かいじゅうけっせんカード」を折込付録にする。(1970年10月)
3⃣ この中の「ひばくせい人」と書かれたスペル星人のカードに、中学2年の女子生徒が疑問を持ち、父に相談する。 父・中島氏(東京都原爆被害者団体協議会・専門委員)が、小学館に抗議文を出す。
4⃣ 小学館からの回答を待たずに、「朝日新聞」が誤解をあおる記事を載せる。(1970年10月10日)
5⃣ 小学館が謝罪文を公表する。(1970年10月14日)
6⃣ 円谷プロが謝罪文を出し、今後資料の提供をしないことを表明。いわゆる「永久欠番」声明を出し、これ以降、あらゆるメディアにいっさい第12話が露出することはなくなった。
7⃣ 以後、多くのウルトラファン、円谷ファンが、第12話解禁を訴え続ける。
8⃣ 女優・ひし美ゆり子(アンヌ)が、第12話解禁を祈るメッセージをツィートする。(2017年12月17日)
9⃣ ミロが第12話解禁運動に参戦する。(2019年10月3日)
         ↑
       いま、ここ!

確認しておきますが、作品としての『ウルトラセブン』第12話を批判した人はいません。
批判されているのは、スペル星人を掲載した複数の雑誌社だけです。

それも被爆者が抗議したわけではなく、
被爆者支援団体が「被爆者差別」という錦の御旗を振りかざして、
彼らの誤った勝手な解釈を押し付けて、一方的に攻撃してきただけのことです。

映画『ひろしま』の時も感じたのですが、
左翼団体が政治的に介入することで、かえって一般市民と被爆者のあいだに、溝を掘ってしまっているところがあるように思います。

政治的イデオロギーを持った団体が介入すると、解決するものも解決できなくなってしまう。
そういう事例は、日本中、いたるところにあるんじゃないですか?


かいじゅうカードについて、ひとこと。
『ウルトラマン』に登場した怪獣も、『ウルトラセブン』に登場した宇宙人も、
ともに「かいじゅう」というくくりでまとめられてしまっているが、
『ウルトラセブン』に登場するのは「怪獣」ではなく、「異星人」なのです!

にもかかわらず、十把ひとからげに「怪獣」と呼んでいるのは、
雑誌社が、当時の凄まじい怪獣ブームに便乗して出版しているからでしょう。
怪獣ブームがもたらした、不幸な事件だったという印象が強いのは否定できません。

また、円谷プロですが、
作品を作り上げる並外れた情熱には、感服もし敬意も持っています。
ファンを大事にする粋な対応も知ったうえで、あえて言わせてもらえれば、
出来上がった作品を守ろうという意欲に、いささか欠けていたのではないか?

昨今の、海外での『ウルトラマン』著作権裁判には仰天してしまいました。
なんで自分のところが制作した作品の著作権裁判で、負けてるわけ?
もっと作品たちを大事にしてほしい、と、いちファンとしてお願いしたいです。


なんとか、アンヌが元気なうちに、第12話を解禁してほしい。どんな形であってもいいので。


20✕✕年 『ウルトラセブン』第12話「遊星より愛をこめて」、
ついに解禁!!!

こちらもどうぞ!
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『ウルトラセブン』第12話 欠番問題が突きつけるもの──怪獣乱舞の時代・再考


<参考>
「1/49 計画」サポートページ
Things We Said Today~今日の誓い~ 2014年
ファンタスティック コレクションNo.29『ウルトラセブン SFヒーローのすばらしき世界』朝日ソノラマ、1983年(昭和58年)
『怪獣学・入門!』所収「「幻の12話」を20年間追い続けた男」JICC出版局、1992年

  1. ウルトラセブン スペル星人 怪獣カード 大伴昌司
    ①ウルトラセブン スペル星人について。 結果論になりますが、大伴昌司はどうして「ひばく星人」と銘を打ったのでしょうか。 大伴昌司がそんな銘を打たなければ、封印されることはなかったと思います。
    どうして当時は大伴昌司が設定を勝手に考えいたのですか?
    また、それを突っ込む人もどうかしていたのでは?
    ② スペル星人と大伴昌司について
    スペル星人の「ひばく星人」の命名は大伴昌司だそうで・・・でその大伴昌司は1967年に出版した怪獣解剖図鑑が原因で、円谷プロの怒りを買って出入り禁止になった、との事ですけども・・・ その出入り禁止になっていた間の1970年秋にひばく星人事件が起きて、社会問題化するほど叩かれたらしいですが・・・騒動が終わった1973年正月に大伴昌司が亡くなる直前、円谷プロとの和解を希望して円谷英二の本を出版したとの事・・・ これってつまり「ひばく星人」の元凶が大伴昌司である事を本人は無論の事、円谷プロでさえ把握してはいなかったし、結果的に円谷プロに迷惑を掛けた大伴昌司も自覚していなかった、って言う事なのでしょうか? あと仮に大伴昌司が急死していなかった場合、件の事実が発覚したら、一時和解出来たとしても結局は絶縁されてしまっていたのでしょうか?
    ③もしもウルトラセブンの第12話が欠番にではなかったらスペル星人はガッツ星人やエレキングやキングジョーやメトロン星人やパンドン等並ぶ代表怪獣になったと思いますか?
    ④ ウルトラセブンの12話はクラウドファンディング等で解禁出来ないのですか?
    ⑤どうしてウルトラセブンの12話を消すなら消すで13話を12話にして、全48話にしてほしい どうして中途半端に残すですか?

    • コメント、ありがとうございます。
      返事を書き始めたら、どんどん長くなってしまうので、
      あらためて記事にして、質問に対する答えとさせていただこうと思っています。
      いま少しお待ちくださいね。