『ゴジラ』と『シン・ゴジラ』進撃コースの比較

前回の続きです。

昭和29年版『ゴジラ』では、ゴジラは小笠原諸島のうちの何処かにある大戸島に現れ、民家を破壊して去ります。
その後ゴジラは、突如品川の海岸線から本土に上陸し、操車場を破壊し、品川駅構内に進入、品川駅に向かって走る急行列車がゴジラの足に衝突し、転覆する名シーンとなります。
ゴジラはそのあと、八ツ山鉄橋を持ち上げ、大地に叩きつけて破壊すると、再び海へと戻っていきました。

ゴジラ対策本部が立ち上げられ、東京湾全域の海岸線に、5万ボルトの電流が流れる高さ30m,幅50mの有刺鉄条網が首都防衛線として構築されます。防衛隊本部から出動する戦車や大砲、重機部隊や、避難する住民がドキュメンタリー・タッチで描かれ、作品のリアリティを支えています。

ゴジラが再び、芝浦海岸から上陸し、鉄条網へと接近します。ゴジラが鉄条網に触れてスパークし大きな火花が飛び散るや、防衛隊の戦車や重砲、機関銃が斉射を浴びせます。

鉄条網を突破したゴジラは、田町駅前~三田方面~新橋~銀座尾張町と進み、松坂屋を放射能火炎で炎上させ、和光ビルの時計塔を破壊します。映画公開後、松坂屋から「縁起でもない」と猛抗議された話は有名です。

さらにゴジラは、晴海通りを有楽町へと進み、永田町では国会議事堂を踏みにじり、平河町のテレビ塔をそこで実況中継しているアナウンサーごとなぎ倒します。報道スタッフが自分たちの死に様を実況中継しながら地面に叩きつけられていく描写は、円谷特撮の見せ場でもあります。

地図を見ると、ゴジラが進むすぐ右手の奥には、お堀を隔てて皇居がありますが、
ゴジラは皇居の周りを時計回りにぐるっと廻るような進路を取り、上野~浅草を経て、隅田川を南下し、東京湾へと去っていきました。

昭和29年版『ゴジラ』マップ

以上が、昭和29年版のゴジラの進路の概要ですが、つぎは『シン・ゴジラ』の進路を見てみましょう。

『シン・ゴジラ』においてゴジラは、最初に羽田沖に現れ、巨大な水蒸気の柱が目撃されます。さらに東京湾横断道路・アクアトンネルが原因不明の浸水し、ついに浮島沖で巨大な尻尾が現れます。東京湾の各所で起こった事故が、謎の巨大生物が原因だとわかると、首相官邸地下の危機管理センターでは、対処方法が話し合われます。

この東京湾内にあった頃のゴジラは、「第一形態」と呼ばれます。全身がはっきりと映ることはないのでその形状は謎なのですが、どうやら、オタマジャクシに似た形状をしているようです。
今回のゴジラって、両生類? ……通常の生物学的分類にはおさまらないところに、ゴジラのゴジラらしさがあるのでしょう。

ゴジラは橋梁や船舶を破壊しながら、呑川のみがわを遡上していきます。
大河内首相が記者会見を開き、「巨大生物の上陸の心配はない」と語っているその時に、ゴジラは蒲田に上陸します。上陸したゴジラはさらに、品川方面へと進行していきます。

この上陸したての頃のゴジラは「第二形態」とされます。尖った胸郭と後ろ足が発達した形状が特徴です。
ゴジラは、急速に変態を繰り返しながら進化してゆき、東京の市街地を突き進んでいきます。

品川湊に達したゴジラは船付場付近で突如停止し、体を立ち上がらせると、腕が形成され、陸上生活に適応した「第三形態」へと変貌を遂げます。
二足歩行で、八ツ山橋方面へとゴジラは歩き出し、京浜運河を経て、東京湾へと帰って行きました。

『シン・ゴジラ』初回上陸マップ

再びゴジラが相模湾に出現したとき、ゴジラはさらに巨大化した姿であらわれ、鎌倉市に上陸します。さらに進化した「第四形態」です。ゴジラはそのまま北上し、東京方面へと向かいます。
大河内首相は、多摩川をゴジラの東京侵入を防ぐための絶対防衛線とさだめ、F2戦闘機、戦闘ヘリAH-1Sコブラ、攻撃ヘリAH-64Dアパッチ・ロングボウ、機構科と特科大隊を丸子橋緑地に布陣して、ゴジラを迎え撃つ「タバ作戦」を開始します。

『シン・ゴジラ』予告

自衛隊の猛攻を受けるも、ゴジラはついに多摩川を越え、東京都内に入ります。絶対防衛線はあっさりと破られ、大田区、世田谷区、目黒区を横断し、ゴジラは新橋駅に至ります。
米軍の爆撃機B-2がゴジラ攻撃のために大挙して接近するも、ここでゴジラはさらに体を変形させ、背中の割れ目から破壊光線を放射し、全機を撃墜してしまいます!

この破壊ビームは、銀座の和光、松坂屋をも、真横に真っ二つにしてしまいます。
初代ゴジラが破壊した和光と松坂屋です! ついに『シン・ゴジラ』は、昭和29年版『ゴジラ』と舞台が重なってきました!

ゴジラは東京駅構内へと侵入し、最終決戦である「ヤシオリ作戦」が始動します。動きを止めたゴジラを新幹線爆弾で叩き起こし、大量の無人機(ドローン)を囮(おとり)に使って、ゴジラに破壊ビームを放射させ、エネルギーを枯渇させる作戦に出ます。つぎに無人在来線爆弾でゴジラを横倒しにし、さらにビルを倒壊させてゴジラの動きを封じ込めたところへ、多数のポンプ車が続々と集まり、ゴジラの口の中へ血液凝固剤と細胞膜の活動抑制剤を流し込みます。

『シン・ゴジラ』再上陸マップ

ちなみに「ヤシオリ」とは、日本神話で、スサノオノミコトがヤマタノオロチを退治するときに用意させた強い酒、「ヤシオリの酒」を意味しています。ゴジラをヤマタノオロチに見立て、ゴジラに注入する血液凝固剤を「ヤシオリの酒」に見立てたわけです。

そもそも『ゴジラ』とは、洋の東西を問わず古くから伝承されて来たドラゴン退治英雄伝説の一変種とも読めるわけで、ドラゴンを退治する英雄が、『ゴジラ』では芹沢博士という悲劇の科学者であったのに対し、『シン・ゴジラ』では、矢口蘭堂・内閣官房副長官という政治家になっています。

政治家が英雄ねえ、‥‥ 現在の日本では、正直言って有り得ないと思います。
私が盛り上がることのできない理由というのは、ここなんだよね!
『シン・ゴジラ』一番のファンタジーであり、最大の「虚構」ではないですか?

東日本大震災の経験により、科学者がもう全幅の信頼が置ける存在ではなくなってしまった、ということも指摘しておくべきでしょうね。
これまでのゴジラ映画のようには、『シン・ゴジラ』では科学者は中心となって活躍しておりません。
時はやはり流れたのです。 

本土決戦となったら、東日本大震災の時の政権党だった民主党のようなザマじゃあ、日本は滅びてしまいます。
どうも日本人が考えているシヴィリアン・コントロールっていうやつは、どこかが間違っているのではないか?
いまの日本の国家体制・防衛体制が映画のような状態だとしたら、これはどんな戦争にも勝ち目はないな。
ゴジラに勝てないのは、最初から目に見えている、とも言える。
‥‥ふと、そんな不安がよぎる映画でも有りました。

それはゴジラの東京襲撃が、中国や北朝鮮による攻撃のメタファーに見えてしまったからです。
現行の憲法のもとでは、「戦争」が始まるときはいつだって、ゴジラに襲われるのと同じように、
「本土決戦」から始まらざるを得ないからです。

太平洋戦争では「本土決戦」は、戦争の最終局面において行われるものでしたが、
先制攻撃を認めない現行憲法のもとでは、戦争の始まりがすなわち本土決戦とならざるを得ません。
こんな国民の生命を無視した憲法のもとで、本当に国民の生命や財産が守れるのか?
ゴジラに蹂躙され、破壊されまくる東京を見て、暗澹とした一瞬が確かにありました。

ゴジラ進化第4形態

(つづく)

<参考文献>
『シン・ゴジラ』映画パンフレット(2016年)
『円谷英二の映像世界』(1983年、実業の日本社)