アメリカ第七艦隊と『七人の侍』

アメリカ第七艦隊と『七人の侍』

アメリカの原子力空母カールビンソンが、フィリピン沖から日本海へ向けて、
日本の海上自衛隊のイージス護衛艦隊と合同訓練を繰り返しながら北上している。

日本国内では「専守防衛」の観点から「護衛艦」と呼んでいるが、
世界標準に従えば「駆逐艦 destroyer」である。(「いずも」等の空母タイプは除く)

北朝鮮が国連決議にしたがうことなく、
ミサイル発射や核実験を繰り返していることに対する警告と、
武力を誇示してアメリカと周辺国を威嚇していることへの、アメリカのプレゼンスの発動だ。

自衛隊も加わったということは、また1歩、Xデーに近づいた兆候かも知れない。

黒澤明監督の『七人の侍』という映画がある。

野武士に狙われた村を守るために、
村人の代表たちが飯を食わせるというだけの条件で侍を雇い、村に連れ帰ってきたのはいいが、
肝心の村人たちは侍を恐れ毛嫌いし、それぞれの家に閉じこもったきり出てこない。

その時、野武士の襲来を告げる鳴子のカンカンカンという音が、村中に鳴り響く!

すると、それまで隠れていた百姓たちはわらわらと家から飛び出してきて、
「お侍様あ~~、お侍様あ~~」と侍たちに泣いてすがりつくのである。

この鳴子の音は、菊千代という三船敏郎演じる七人の侍の中の一人が演じたフェイクだったわけだが、
どうも、現在の日本人の反応を見ていると、
映画『七人の侍』の百姓たちの姿が重なって見えてしまって仕方がない。

いずれこうなる日本および日本人の運命を、クロサワは昭和29年の時点で見通していたのだろう。

昭和29年(1954年)。
この年、『ゴジラ』と『七人の侍』の2大傑作を、天下の東宝はこの世に送り出している。

『七人の侍』 昭和29年(1954) 東宝

音楽:早坂文雄

七人の侍SEVEN SAMURAI =アメリカ第七艦隊 U.S. Seventh Fleetということなのかもしれないが、かれらは「自衛隊」であってもいいはずだ。

小さな村の貧乏百姓たちが、食い詰めた侍たちを安い報酬で雇って野武士と戦わせ、
自分たちの村を守るという構図を見ると、
「小さな村の貧乏百姓」が日本国の比喩である事は明白だろう。


それから63年経って、
日本は経済大国となり、同盟国である軍事大国のアメリカとともに、
近所のテロ国家と戦端を開く一歩手前にいる。

北朝鮮状況の確認

まず情報を整理しておこう。
マスコミはいつもどおりヒステリックに反応し、いろいろな情報が飛び交っているので、
状況判断に必要な情報だけを整理することが重要だ。

われわれの一番の関心は、アメリカは本気で北朝鮮と武力衝突する覚悟があるのかどうかということだ。
アメリカというよりトランプ政権というべきかもしれない。

すでに原子力空母カールビンソンは朝鮮半島海域をめざして北上中であり、わが海上自衛隊と合同訓練したことが伝えられている。
これがトランプ政権の「意志」の表れであることは、疑いようがない。

それに対して北朝鮮のアメリカや中国に対する反発も、かなりヒートアップして来ているようだ。

まず、確認しておくべきことは、北朝鮮が決して核開発をやめることは無いということだ。
北朝鮮が話し合いを求めていると言っても、それは核保有国として認めろということでしか無い。
朝鮮半島の非核化を求めている日本やアメリカとは、まったく話が噛み合う可能性はない。

これまでの経過を見ても、
話し合いという名目で時間をかせぎながら、その裏で北朝鮮は着々と核開発を進めて来た。
これ以上、相手の策略に乗るほどバカげたことはない。

アメリカにとっては、アメリカ本土を核攻撃できる力を北朝鮮に持たせることは、
なんとしても阻止しなければならない最優先のミッションだろう。
ISISだって核攻撃をやることはない。どちらがアメリカにとって重要かは自明のはずだ。
いかなる阻害要因があるにしても、これだけは絶対にアメリカはやるだろう。

高高度EMP(電磁波爆弾)という小型核なら、
必ずしも大陸間弾道弾 ICBM がなくても、現状の北朝鮮が持っている衛星技術だけで、
アメリカ本土攻撃が十分に可能だという。
核電磁パルス攻撃が実行された場合、アメリカ国民の90%が死ぬという警告が、
トランプ政権の側近のひとりによって、先月、米議会専門誌『ザ・ヒル』に発表された。

「斬首作戦」などという言葉も、チラホラと聞こえているが、
いったいどれぐらい実現可能なのだろう?
金正恩は、フセインやビン・ラディンのように砂漠の中の一軒家にいるわけではない。
金正恩が潜むだろう地下コンクリートシェルターを破壊するには、核爆弾を使用するしか方法がない。

金正恩への贈り物──地中貫通核爆弾B-61をB-2ステルス爆撃機によって投下する準備はできていると見ていい。
作戦の発動時期が未定なだけだ。

しかし、金正恩ひとりを殺害したとしても、それで終わりではない。
幹部クラスのものが生存していれば、
所有している限りのミサイルや生物化学兵器が使用される可能性は残る。

それは韓国や日本にとっては、地獄のシナリオだ。

米朝開戦の客観的な条件は、すでに整ってしまっている。
あとは当事者たちが、いつ決断するかにかかっている。
金正恩とトランプの、どちらが先に手をくだすのか?
そしてそれは、いつなのか?

アメリカ軍が先制攻撃をする可能性は、4年以内に50~60%というシミュレーション結果も出ている。(「産経新聞」2017.3.8)

米朝開戦のシミュレーション

北朝鮮は、アメリカが戦争をしかけてきたら、韓国・ソウルと東京は火の海になると威嚇している。

アメリカ・トランプ政権は、すでに米軍が北朝鮮を先制攻撃した場合のシミュレーションをしている。
その結果は、韓国や日本に大規模な死傷者が出るため、
第一の選択肢としては捨てた模様だ。
むろん、金正恩が核実験やICBMの発射実験を強行した場合は、その限りではない。

トランプ政権の最初の一手は、中国に圧力をかけて、北朝鮮を経済的・外交的に圧迫し、核放棄をせまることだ。
4月6・7日、トランプ・習近平の初めての米中首脳会談が行われたが、
トランプは夕食会でデザートのチョコレートケーキを食べながら、「シリアに59発のミサイルを発射したよ」と習近平に告げたということだ。
この夕食会が始まる直前に、大統領命令によって、トマホーク巡航ミサイル59発がシリア空軍基地に叩き込まれた。
習近平は10秒間、凍りついて無言だったという。そして「幼い子供や赤ん坊に対して化学兵器を使ったやつなら仕方がない」と答えたという。
これがトランプ流の外交なのだろう。

北朝鮮に対しても同様のことをする用意がある、ということが十分に習近平に伝わったようだ。
「中国がやらなければ、アメリカがやる」というトランプの言葉がただの脅しでないことは、
会談後すぐに原子力空母カールビンソンが朝鮮半島へと向かったことでわかったはずだ。
どうやら中国は、今回は本気で北朝鮮への石油の供給停止に踏み切ったと見られている。

石油がなければ、北朝鮮の軍も企業も動きが取れなくなる。
これはそうとうに効くはずだ。

第2次世界大戦における日本も、ABCD包囲網という経済封鎖を食らったため、
石油が底をつく前に事態を打開しようとして、対米英戦開戦に踏み切ったのだ。
そしてオランダ植民地下のインドネシアスマトラ島・パレンバン油田へ、
加藤隼戦闘隊の護衛のもと陸軍落下傘部隊の降下作戦が実行され、石油基地を手に入れた。

北朝鮮も、限界が来る前に何らかの手を打つはずだ。

トランプの狙いは明らかだ。
アメリカは経済封鎖の解除と金正恩体制の維持を条件に、核放棄を迫ると考えられる。
そしてこれが、北朝鮮への最終通告になるのだろう。
北朝鮮はどのように対応するのだろうか?

もし北朝鮮が先に攻撃すれば、それもよし。アメリカが北朝鮮を攻撃する大義名分が成立するわけだ。
世界や韓国、日本にも、申し開きが立つ。

アメリカが武力行使に踏み切った場合、どういうことが起きるのか?

1.一気に全面戦争に突入する
 北朝鮮には、核やミサイル基地が国内に数十箇所あるとみられている。
 どれか一つでも撃ちもらせば、そこからミサイル攻撃の反撃を受ける。
 やる以上はそれらを一気に攻撃するしか、米軍のとる道はない。

 当然北朝鮮も、1箇所でも攻撃を受ければ、全力で反撃するだろう。
 どちらが先に攻撃するとしても、最初の一撃で、米朝は全面戦争に突入する。

2.朝鮮人民軍の緒戦戦術
 南北朝鮮の軍事境界線沿いに、北朝鮮は300~500門の長距離砲を常時展開している。
 これが全門火を吹けば、1時間で約6000~7000発の砲弾がソウル市街に降り注ぎ、
 市内の建物の10~15%が破壊され、数千人の犠牲者が出るとみられている。

 昨日の北朝鮮軍の創建記念日に、大規模な火力演習が実施された様子をテレビが映し出していたが、
 あの光景がソウルに向けて、戦争開始と同時に繰り広げられるわけである。
 あの映像を公開した北朝鮮の意図は明らかである。 

 火力攻撃と並んで朝鮮人民軍は、韓国軍に対して「縦深攻撃」(じゅうしんこうげき)を実施すると見られている。
 「縦深攻撃」とは、最前線にいる敵だけでなく、その後方にいる敵までを攻撃対象とし、
 眼前の敵を殲滅しながら一気に敵陣を突き破り、敵の後方をとって、前後から挟み撃ちにして攻撃する戦術だ。
 

 北朝鮮の現在の常備軍は120万人だが、
 全縦深攻撃のための兵力として、予備兵を含めて全400万人の兵力を抱えているといわれている。

 しかし、残念ながら、北朝鮮の攻勢は初期だけで終わることだろう。
 400万の兵を支える兵站(食料を始めとする軍需物資)の補給は不可能だし、
 装備に優れた韓国軍の反撃によって、押し返される確率が高い。

 そのあと北朝鮮軍に出来ることは、特殊部隊によるゲリラ戦ぐらいだろう。
 これはこれで厄介ではあるが。

 米空母に向けてのミサイル攻撃は、試みるかもしれない。
 原子力空母カールビンソンは、電子戦用のグラウラーを搭載しており、
 ミサイル誘導のためのレーダー機能を撹乱するはずなので、どの程度正確に着弾できるかはわからない。
 さらにミサイル迎撃のためのイージス駆逐艦隊によって守られているので、
 ほとんどのミサイルは撃ち落とされるだろう。
 それと引き換えに、何百発かのトマホークと、最新鋭戦闘機スーパーホークの洗礼を受けることになるだろう。

3.北朝鮮指導部は、開戦すれば国内に約1万箇所あるという地下施設(武器庫等を含む)に逃げ込むとみられている。
 これをすべて潰していくには、アメリカ軍といえども相当の時間を要する。

4.戦争終結までに、どれくらいの時間がかかるか?
 米国が大規模な地上部隊を派遣するのに、およそ1ヶ月程度はかかるようだ。
 それから戦争終結まで数ヶ月を見込んでいる。
 ただし、戦後の激しい抵抗も予想しているので、そうなれば、
 これはどうなるか、やってみないとわからないというのが本当のところだ。

この予想には、ロシアと中国の動向が考慮されていない。
ロシアの戦車部隊が北朝鮮国境へ向かったとか、
中国人民軍が北朝鮮国境へ移動したという情報もある。
両国が介入してくると、戦争の行方はさらに不透明なものになるだろう。

そして、日本は

日本の自衛隊は、開戦後は同盟国として米軍の後方支援を担当することになるようだ。
武器・弾薬等の運搬は当然のことながら、潜水艦哨戒機P3Cや給油機などの出動もあるのかも知れない。

当然、海上自衛隊のイージス艦隊は日本海側でミサイル迎撃態勢をとる。
米軍基地の所在地と首都を中心にした防禦シフトをとることになるが、
飽和攻撃をされた場合、どの程度防御できるのか?
データがない以上、やってみないとわからないというのが実情のようだ。

いずれにしても、攻撃を受ければ、自衛隊員にも日本国民にも犠牲が出る。
それが戦争だ。

民間の飛行機の運行が制限されれば、日本への輸入も他国への輸出も止まってしまう。
民生関係に影響が出るのは必至で、日本が受ける経済的損失は計り知れない。

北朝鮮は数の面からだけ言うと、潜水艦大国である。
Global Fire Power.com
古参艦ばかりなので戦闘能力は低いと思われるが、
それでも東シナ海あたりで日本のシーレーンを狙われたら、
民間貨物船や石油タンカーを沈めるぐらいの能力は持っているので油断はできない。
しかし、基本的には「朝鮮半島近海用」と見られている。

下の画像は、『七人の侍』のラストシーン近くの場面である。
後方に見えている刀が突き刺さった4つの大きな土饅頭は、野武士との戦いで命を落とした侍たちの墓である。
その一つには、菊千代も眠っている。
その前方に無数に見える小さな土饅頭は、同じく一緒に野武士と戦って落命した百姓たちの墓である。

米朝が開戦すれば、
後方支援をする自衛隊員たちの何百名か何千名かが殉職するかもしれない。
日本の一般国民も死ぬ。
だが、そのことで日本国全体が滅びることはない。
生き残った者が、復興するだけのことだ。

他国の武力で平和な日常が侵略されないような、
強い国防精神と軍備的にも強力な国家を、今度は作ればいい。

それでいいではないか。

ちなみに本日4月26日は、『七人の侍』が63年前に公開された「封切」の日である。

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