「洗脳」という言葉の起源
GHQによる日本人の「洗脳」という用語を、なんの説明もなしに使って来ましたが、
じつはアメリカ側の文書に「洗脳」という言葉は出て来ません。
なぜなら、1945年(昭和20年)当時、「洗脳」=「Brainwashing」(ブレイン・ウォッシング)という言葉そのものが、
いまだ無かったからです。
「洗脳」=「Brainwashing」という言葉は、
マインドコントロール、再教育(reeducation)などと同じような意味合いで使われます。
この言葉が生まれたのは、
朝鮮戦争(1950年~1953年)での或る事件がきっかけとなっています。
共産国側の捕虜になった連合国軍兵士が、
自分は帝国主義の手先だったと記者会見で述べ、アメリカを驚愕させた事件がありました。
調査したところ、このアメリカ人兵士は、中国軍により「思想改造教育」を施されており、
羅瑞卿が率いる中国軍諜報部は、これを「洗脳」と呼んでいることがわかりました。
この「洗脳」を英語に直訳した用語が「Brainwashing」(ブレイン・ウォッシング)なのでした。
この恐るべき「洗脳」が、すでに1945年から、
自国のGHQが日本人に対し、日本全土にわたって実施していたことを知ったら、
アメリカ国民はさらに驚いたことでしょう。
しかし当時、GHQの洗脳活動は国民には「秘密」にされていたので、
たぶん、いまでもアメリカ国民の多くは知らないと思います。
アメリカの「洗脳」教育映画
1945年11月、アメリカ陸軍省は、連合国軍最高司令官宛に1本のフィルムを送りました。
『日本におけるわれわれの役割』(”Our Job in Japan ”)という題名で、
日本占領軍に見せるために制作した教育用短編映画です。
日本の降伏によって、急転直下、日本占領計画を見直すことになり、
「日本人の民主化」が喫緊の課題として浮上して来ました。
それまでさんざんプロパガンダ映画・文書・ビラ・ポスター等によって、
「猿人間」だとか「黄疸にかかったヒヒ」だとか、
一般大衆に刷り込んで来た日本人像ではさすがにマズイ!というので、
「民主化」を進めるのに値する日本人像を、
占領に携わる人々に提示する必要に迫られたのでした。
Youtubeで見つけましたので、まずはご覧ください。
WW2: Our Job in Japan「日本におけるわれわれの役割」 (1945)
いきなり「日本人の脳」が映しだされて、「再教育」せよ!ですからねえ。
まだ「洗脳」という言葉が生まれる以前から、
アメリカ軍が日本人の「洗脳」を考えていたことは動かせない事実です。
内容を大雑把にでも紹介しようと思いましたが、
聞き取れた言葉が「japanese soldier never die」(日本の兵士は決して死なない)の1フレーズだけだったので、
すぐにあきらめました。(笑)
ジョン・ダワーが『敗北を抱きしめて』の中でこの映画に言及しているので、
それをもとに映画の概要をお伝えしようと思います。
冒頭のシーンは、
戦艦ミズーリ上での降伏文書の調印式ですね。
ミズーリの上空を、アメリカの戦闘機がわんわんエンジンを唸らせながら、
飛び回っているのがわかります。
そして「脳」が、無数の「日本人の脳」が、
これでもかと何度も大写しにされます。
アメリカが直面した問題は、日本人の脳の問題なのだ。
「日本には、七◯◯◯万個の脳が存在する。日本人の脳は、世界のほかのいかなる脳とも異なっているわけではない。実際、われわれの脳とまったく同じ素材からできているのであり、われわれの脳と同じように、善いこともできるし、悪いこともできる。すべては脳の中にどのような考えがあるかにかかっている。」
(つまり日本人は「猿人間」などではなくわれわれと同じく人間なのだ、ということ。ようやく「人間」に格上げしてもらえました!)
米兵たちは、浮かんでは消える日本人の脳の映像を見ながら、
将軍や軍閥が日本人の脳に教えた恐ろしいことどもを知ります。
「公認の国家宗教」
OFFICIAL STATE RELIGION
このクレジットが出ると、
軍国主義者が日本古来の神道の教義を利用して、
人々を洗脳するための現代の武器としたことが語られます。
なんか日本人でも見たことのないような、
奇妙な祭りの風景が、これでもかとモンタージュされますが、
これはアメリカのプロパガンダ映画の常套手段だとのことです。
最後の方の数分間を除いては、
みんな過去のプロパガンダ映画の映像の寄せ集めで出来ているようです。
「太陽の女神(天照大御神)は、地球のすべての他の人々を支配するために、日本人を創った。」
The Sun Goddess Created the Japanese to Rule all the Other People of the Earth
この部分は、戦時中のアメリカのプロパガンダの核心部分だったので、
ナレーションと文字の両方で強調されています。
「全世界を支配するために創造された」
CREATED TO RULE THE WHOLE WORLD
たたみかけるように、クレジットが出ます。
もう、何が何でも日本人を、「世界征服者」にしたいみたいです。
そうでないと、これからアメリカ軍がおこなう「日本人洗脳計画」が、
正当化できませんからね!
「これが日本の最後の戦争だ」
THIS IS JAPAN’S LAST WAR
なぜなら武装解除に続いて「精神的武装解除」が、
この映画を見ている人々によって、これから行われるわけですから。
自由の鐘がガロランガロランと鳴って、ジ・エンド!
アメリカのプロパガンダ映画とはいかなるものか?
そのレベルの高さがうかがわれる作品がありますので、ごらんください。
『汝の敵日本を知れ』(”Know Your Enemy: JAPAN ”)は、
アメリカの陸軍省が制作し、日本降伏の数週間前に公開されました。
Know Your Enemy: JAPAN 「汝の敵日本を知れ」 (Audio Remaster)
日本人についての客観的な研究を装いつつ、適当に虚構の情報を織り交ぜて、
しっかり日本人への敵愾心を煽り立てているところはさすがです!
日本の軍部にも、
これぐらいのレベルのプロパガンダ映画を作れる知性があったらなあ!
と思わずにいられません。
『日本におけるわれわれの役割』でも『汝の敵日本を知れ』でも、
日本人が世界征服を企んでいたことをプロパガンダするところで、「田中メモ」(Tanaka Memorial)というものが出て来ます。
「田中上奏文」「田中メモリアル」「田中メモランダム」などとも呼ばれますが、
コイツがなかなかの曲者で、
日本側では早くから「偽書」であるとして意見の一致を見ていましたが、
特に中国やロシアでは、
日本が世界征服を企んでいる証拠として、積極的にこれを悪用して来ました。
私が最近手に入れた『中国抗日戦争史』という、
中国で販売されている5枚組のDVDのなかでも、
一番最初にこの「田中上奏文」が堂々と取り上げられていました。
いまだに中国共産党は、人民を反日に仕向けるために、
歴史を改竄する「洗脳」のツールとして、「田中上奏文」を悪用していると私は見ました。
「田中上奏文」Tanaka Memorial
1929年(昭和4年)9月、
日本政府は中国政府が第3回太平洋会議(京都会議)において、
元首相の田中義一が上奏した国策案なるものを、提出する準備をしていることを知ります。
この「田中上奏文」なる怪文書を入手し、内容を検分したところ、
日本人が書いたのなら当然知っているような間違いが多数確認でき、
これは外国人が書いた「偽書」であると判断を下しました。
けっきょく、この文書が公式の場に提出されることはなかったのですが、
それがかえってその後のアジア情勢に、思わぬ影響をあたえることになります。
「田中上奏文」の内容というのが、
第一に台湾掠奪、第二に韓国併合、第三に満蒙併呑と、
日本のその後の大陸政策を予言するような内容だったうえ、
1931年(昭和6年)9月、満州事変が勃発し、
日本は、「田中上奏文」どおりの大陸過程を踏んでいきます。
中国政府は「日本は世界征服を目論んでいる!」と、「田中上奏文」を振りかざして、
国際世論を味方につけようと画策し始めました。
「田中上奏文」をめぐる一連の国際的「宣伝戦」「謀略戦」を通じて、
中国政府は各国の支持を得ることに成功します。
このことはやがて、日本の国際連盟脱退への道につながって行きます。
「田中上奏文」はいまだに謎の多い歴史的事件です。
大陸政策に通じている日本人でないと知ることのできない機密事項が含まれているので、
原文を作成したのは日本人であり、それが中国側の人間に売り渡され、
その後中国側で偽装工作が加えられ、国際的な日本包囲網を形成するための謀略に利用された、
という見方が一般的なようです。
それに関わったと推察される日本人と中国人の具体的な名前も出て来ています。
「田中上奏文」の日本語の原史料は当然のことながら存在せず、
現存するのは、英語版と中国語版のものだけです。
「田中上奏文」中国語版
《参考文献》
『敗北を抱きしめて』ジョン・ダワー(岩波書店)