「ネリカン・ブルース」の変遷

『可愛いスーチャン』から『練鑑ブルース』へ

『浮浪児の栄光』の「資料編」として、「ネリカン・ブルース」の変遷を取り上げたいと思います。

『浮浪児の栄光』──佐野美津男の不良少年入門で紹介した『練鑑ブルース』は、基本形のフル・バージョンですが、このほかにも「大阪少年鑑別所」バージョンとか、いろいろあるようです。

歌詞に違いがあるということで、メロディの方は共通で、軍歌『可愛いスーチャン』の替え歌です。軍歌とはいっても、「小唄」系の非公式に歌われたタイプのものに属します。

こちらが練鑑ブルースの元歌になります。

『可愛いスーチャン』

 歌/青江三奈

『可愛いスーチャン』
作詞・作曲/不詳

お国の為とは 言いながら
人の嫌がる 軍隊に
志願で出てくる 馬鹿もいる
可愛いスーチャンと 泣き別れ

朝は早よから 起こされて
ぞうきんがけやら はき掃除
いやな上等兵にゃ いじめられ
泣く泣く送る 日の長さ

乾パンかじる ひまもなく
消灯ラッパは 鳴りひびく
五尺の寝台 わらぶとん
ここが我等の 夢の床

夜の夜中に 起こされて
立たなきゃならない 不寝番
もしも居眠り したならば
行かなきゃならない 重営倉じゅうえいそう

海山遠く へだてては
面会人とて さらになく
着いた手紙の 嬉しさよ
可愛いスーチャンの 筆の跡

軍隊も鑑別所も、「鉄の規律」と「いじめ体質」はおなじだということなんでしょうね。曲想が「ネリカン・ブルース」として相応しいと感応した替歌作者の感性には、うならされます。

作曲家・音楽評論家の森一也によれば、この曲は三拍子の五音長音階で、三拍子の民謡というのは日本にはなく、韓国民謡にみられる特徴だそうです。戦前に朝鮮守備隊に入営していたひとか、あるいは、日本軍に徴兵された朝鮮人による作曲ではないか、と推測しています。
たしかに、ちょっと、日本の曲とは違ったものを感じさせられますね。日本文化に流入した朝鮮文化の一端が、ここにはあるのかもしれません。

つぎは、「ネリカン・ブルース」の「簡略」バージョンです。

『練鑑ブルース』

『練鑑ブルース』
補作詞/仲田三孝 採譜/仲田三孝 歌/交楽まずら龍弾りゅうだん

身から出ました さびゆえに
いきなポリ公に ぱくられて
手錠かけられ 意見され
着いたところが 鑑別所

父さん母さん ゆるしてね
これからまじめに なりますと
いった言葉も うわの空
かわいいあの娘の ことばかり

小さな窓から 空見れば
あの星あたりが スケのやさ
スケちゃんいまごろ なにしてる
写真片手に 目に涙

これぞ「演歌」といった歌いっぷりです。
日本の「演歌」そのものが、古賀政男によって朝鮮の旋律がもちこまれ、日本の流行歌の旋律と交合することによって生まれたことがしられています。それとは別ルートで、軍歌を通しても朝鮮の旋律が持ち込まれていたことは、強調しておくべきことかもしれません。

『檻の中の野郎たち』守屋浩

「ネリカン・ブルース」の「歌謡曲化」という現象もみられました。
守屋浩の『檻の中の野郎たち』は、昭和34年(1959)8月4日に封切られた同名の東宝映画の主題歌でした。
ロカビリー歌手総出演の少年院を舞台にした喜劇だったようですが、設定だけ見てもすでに「ゆるさ」を感じるし、歌詞をみてもだいぶロマンチックなものになってしまって、リアリティが感じられません。
作詞は、「姿三四郎」「柔」などを書いている関沢新一で、「ネリカン・ブルース」の替歌になっています。
レコードも発売されましたが、歌詞が問題にされ抗議を受けて、販売中止になってしまいました。


『檻の中の野郎たち』
作詞/関沢新一 作曲者/不詳 編曲/中村八大 歌/守屋浩

思い出したら 泣けてくる
そんなセンチな 俺じゃない
馬鹿な奴だと 言うけれど
こんな世間が 馬鹿にした

空が四角に 見えるのサ
夢も四角に 見えるのサ
野暮で冷たい とこだけど
風も吹く吹く 花も咲く

格子窓から 空みれば
誰か呼んでる 星月夜
あれは俺らの 母さんか
畜生可愛い あの娘かよ

みれば一クセ ある顔も
淋しがり屋で 親切で
どいつこいつも いいヤツさ
住めば天国 檻の中


つぎに、こちらは「純演歌」として生まれ変わった「ネリカン・ブルース」です。

『ネリカンブルース』 藤圭子

『ネリカンブルース』
作詞/若杉嵐 作曲/不詳 歌/藤圭子

身から出ました さびゆえに
夢を見てさえ 目がにごる
恨む親でも 有ればいい
一人生きてく 世が寒い

曲がりくねった 道だから
ひねくれ根性で 歩いてた
俺も人の子 人なみに
過去もあります 傷もある

殺したいほど 惚れたのに
好きと言えずに 言われずに
別れて今夜も 酒を飲む
あいつの小じわが 気にかかる

金で昔が 買えるなら
堅気かたぎになります 稼ぎます
殴って夢が 覚めるなら
なんで喧嘩けんかを するものか

人の不幸を 聞き流し
笑うこの身は ろくでなし
ひとでなしより まだいいが
こんな男に 誰がした

藤圭子の場合は、彼女のオリジナルの歌詞で歌っています。「圭子の夢は夜ひらく」も替歌といえば替歌だったけど、彼女を発掘した石坂まさをが作詞していました。でも『ネリカンブルース』の作詞は、若杉嵐となっています。この人の情報は、ほとんど得られませんでした。
たしかに、藤圭子の持ち歌にふさわしい一曲ではありますね。

このような商業ベースでの継承とは別に、
岸和田のだんじり祭の「曳き歌」としても歌い継がれているようです。

むかしもいまも、「ネリカン・ブルース」は不良少年の「聖歌」なんだな。

『巨人の星』で知った『二軍ブルース』

私が初めて出会った『練鑑ブルース』の替え歌は、梶原一騎原作、川崎のぼる画の『巨人の星』の中に出てきました。

主人公・星飛雄馬が、テスト生として多摩川グランドでの実地試験に合格して巨人軍に入団し、二軍生活を送っている時期に、同室者であるライバル・速水譲次がギターを弾きながら歌ったのが、柴田勲が二軍時代に作詞したという『二軍ブルース』でした。

『巨人の星』梶原一騎原作・川崎のぼる画

無論、最初はどんな節かも分からずに読みましたが、歌詞の内容に印象的なものがあって、後々まで記憶に残っていました。
そして、初めて『練鑑ブルース』の歌詞を見たときに、
「あッ! これが『二軍ブルース』の元歌だ!」
と気が付きました。

じつは2019年暮れに、この『二軍ブルース』が、『多摩川ブルース』というタイトルで、作詞した柴田勲自身によって自主製作CD化されました。

『多摩川ブルース』 歌/柴田勲

『多摩川ブルース』
作詞・歌/柴田勲

人里離れた多摩川に
野球の地獄があろうとは
夢にも知らないシャバの人
知らなきゃ俺らが教えましょう

マイクロバスに乗せられて
ゆられゆられて行く先は
その名も高き多摩川の
読売巨人の練習場

朝は八時に起こされて
廊下の掃除や拭き掃除
三度の食事も二度一度
挙句あげくは食うなと怒鳴られる

武ちゃんつりちゃん許してね
これから真面目まじめにやりますと
誓った心も上の空
またも抜け出す渋谷の灯
※武ちゃん・・・武宮(鬼)寮長、つりちゃん・・・中尾2軍監督

身から出ましたサビだけど
鬼の寮長に怒られて
竹刀しないで殴られ意見され
連れて行かれる練習場

バカだのホケだの怒鳴られて
イヤイヤやる気はないけれど
これも給料の内ですと
しぶしぶ出かけるイースタン

合宿の窓より外見れば
丸子のネオンの悩ましさ
あの娘が手まねで呼んでるが
出るに出られぬかごの鳥

一年二年は夢の内
だんだん消えてく同期生
今年は俺もあぶないと
夜も眠れぬオフシーズン

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