「乞食の眼」と「星のおじさん」

なんの説明もせずに使って来た乞食こじきという言葉ですが、
きょうはそれについて語りたいと思います。

この言葉にはじめて出会ったのは、草下英明さんの隠れた名著『鉱物採集フィールド・ガイド』(草思社、1984年第3刷)の中でした。
草下さんは次のように述べています。

 ズリの中からこれと思われる石を拾い出すのは、いってみれば、鳥のワシのような眼(わたしどもは「乞食の眼」と称しているが)が必要で、小さな破片でも、汚れてはっきり分からないものでも、こまかく見逃さないことだ。特に、岩石から分離した結晶(長石、輝石、角閃石などの火山岩の斑晶)が泥にまみれて落ち散らばっているという場所では、ワシの眼力がものをいう。だから眼だけは悪くしないよう、十分気をつけてほしい(老眼だけは致し方ない)。

「ズリ」というのは、「鉱石を採掘したあとの岩石の屑カス」のことで、
鉱山の入り口付近などにうず高く積まれています。
ここが、鉱物採集の“猟場”になるわけです。

この本に載っている鉱物の写真の美しさと、草下さんの丁寧な解説と、
鉱物産地の詳細なガイド(地図付き)にすっかり魅せられ、
週末になるとロックハンマーとルーペを持って、鉱山跡を次々と歩き回ったものです。

「乞食の眼」とはうまいこと言うものだな、とすっかり感心し、
以来ずっと記憶の中に残っていました。
そして、乞食の眼がものをいうのは鉱物採集だけじゃないぞ!と
或る日、気付いたわけです。
キノコ狩り、山菜採り…など
野外ハンティングにはなくてはならない眼です。

今日から始める『乞食眼(“こじきがん”と読んで下さい)レーダー』では、
超カテゴリー的にレーダー網を張りめぐらして、
わたしの「乞食眼」で拾い上げた話題を提供していきたいと思っています。
まあ、なんでもありで力を抜いて、というのが趣旨のコーナーです。
レーダーなんて大げさですが、「気分は地球防衛軍」のわたしならではですね(笑)

いまの若い人たちは、草下英明さんをご存じないでしょうね!
私の少年時代に『四つの目』という子供向けの科学番組がありました。
NHKの午後6時くらいだったかなあ。
この番組の解説者として草下さんが毎週登場し、
当時は「星のおじさん」と呼ばれていました。
天文や星についてわかりやすく興味深い話をしてくれる人でした。

科学ジャーナリストというよりは、
稲垣足穂や野尻抱影に続く科学文学者あるいは星の文学者とでも呼ぶべき人です。
天文現象を、知的・感覚的に楽しむことをテーマにしていました。

昭和の「知のトリックスター」の一人だったと思います。

少年時代の私は、草下さんから「宇宙の遊び方」を学び、
大人になって「地球の遊び方」を学びました。

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「鏡鉄鉱」(岩手県・和賀仙人鉱山産)

そういうわけで、
「乞食の眼」ということば、とても思い入れ深い言葉なわけです。
ぜひ、皆さんもご愛用下さい(笑)。